Masuk
寝転がったベッドの上で両手を伸ばす。
何も持っていない手の内に、剣を握るようなしぐさをする。
「エクスカリバー」
シュポン(効果音)
つぶやきとほぼ同時に、手の中に冷たく輝く剣が出現。
その間0.5秒
……なんかゲームの中にあった伝説の武器を、現実世界で自由に取り出せるようになった……。
―――――――――――――――――――――――― 俺の名前は湊陽一(みなと よういち) 医療系の大学に通う23歳だ。日中は大学の研究室で実験を繰り返しす真面目な学生。
だが家では…… 『ソーマファンタジー』というゲームをひたすらプレイしている。ソーマファンタジーは世間によくある、剣や魔法が活躍するネットゲーム。
高校に入った頃からプレイしている上に、大学に入ってからは重課金なのでステータスはすでに最高。
数年かけて入手するような装備を何種類も揃えた。
全てを極めた為、普段は淡々と日課をこなすだけの生活である。
だが先日、新たに実装されたボスとの戦いで久しぶりに時間を忘れて熱狂し、つい朝までプレイしてしまった。
ほとんど睡眠をとらないまま学校に行こうと自転車に乗ったら用水路に落ち……。
目が覚めたらソーマファンタジーの『中にいた』
それが昨日。
そこは巨大な異空間。
目の前には最後に戦ったボス『カオスドラゴン』。
誰かの声に促されるままに戦い続け、なんとかそいつを倒した。
そしたらお礼を言われ、気がついたらいつものベッドの上に戻っていた‥‥‥。
それが今。
――――――――――――――――――――――――――
(冒頭のシーンに戻る)
俺の手の中にはなんか、伝説の剣がある。
どうやらソーマファンタジー(略してソーファン)で手に入れた装備、アイテムがすべて出せるようなのだ。
何と表現すればいいのか難しいが、どうやら異世界での持ち物やステータスをすべて引き継いでいるとでも言えばいいのか。
最初は動揺したものの、数時間経った今はかなり慣れた
ソーファンにおける『エクスカリバー』の性能は……
・時々光属性追加ダメージ
・特殊必殺技使用可能 ・装備している限り持続的にHPが回復さらにソーファンの世界では、独自の設定により
『現在の装備を見た目に反映させない』
ができる。
つまり自分の意思で表示させない限り、周りからは普段着に見える。
防具もチェック。
「竜鱗甲」
再び呟く。
ズシっと身体に重量が来る。
龍の鱗を加工して作った伝説の鎧。
・属性攻撃に耐性
・一定の割合で属性攻撃を吸収 ・最大HPの10%以下のダメージ無効設定でこれも外からは見えないようにする。
ダメージ無効とは……?
さっそく実証実験。
ガスコンロに火をつけて恐る恐る手を差し伸べてみた。なるほど確かに熱さは感じない。
なんとなく熱いものに触れているという感覚はある。冷凍庫から氷を握りしめても同様。
冷たいものだという実感はあるが永遠に握りしめてられる。ステータス画面を見ると、自分の最大HPは3098だ。
これはゲームのソーファン時代と同じ。……確かレベル1のキャラだと20前後とかだったはず。
日常におけるダメージがどれぐらいなのかは不明だが……
とりあえず300以下のダメージ無効、は強そうだ。何がどれぐらいのダメージなのか、少しずつ検証してみたい
他にもたくさんある。
そう考えながら、空中にアイテム欄を表示する
なんというか……脳内の倉庫に大量に収納されてて、いつでも呼び出せる感じ。
そして……。
昨日から始まった異常な設定はそれだけじゃ終わらなかった。
風呂場のドアを開けると……そこには淡く輝く扉がある。
これを抜けると、どこかの森の中につながるようになったのだ。
扉をくぐると、柔らかな木漏れ日の光がサッと差し込む。
優しい風が吹き、草の匂いや土の匂いは、それだけでもう異世界を感じさせる。
「おかえり?」
そこにいたのは少し尖った耳をした、とても小柄な女性。
長い髪をくるくると巻いて結い上げている。年齢は不詳だが、見た目だけなら少女と呼んでもおかしくない。
「うん」
俺は自然にそう応えた。
リアルに会ったのはこれが二回目のはず。
なのに俺はこの女性を最初から知っていた
なぜなら――。
このとても見覚えある小さな女性は……
『俺がソーマファンタジーの中で2アカウント目として動かしていた』
キャラクターだからだ。
ゲームの中では俺自身が動かしていたキャラ。
だが今、目の前にいるこの女性は……明らかに自分の意思で生きている。
彼女の名は『マリチ』といい、魔力と素早さに優れた魔妖精という種族。
もしこの見覚えのありすぎる異世界人が自分の知っているマリチであれば、すべての魔法を極めた魔導士であり、すべてを破壊できる格闘家だということになる。
それも実証してみたいが……今、目の前にいる『マリチ』は俺の自キャラではない。
この世界に生きている実在の人物なのだ。
なので彼女のステータスなどは、今後少しずつ敬意をもって確認したい。
マリチは俺の顔を見ると、にっこり笑って言った。
「そろそろ砂漠の皇帝が湧くころだよ。行くよね?」
「え、あ、うん」
『実際に』会ってまだ数日なわけだが、向こうは……
『旧知の仲で長い間ともに冒険してきた相棒』
という体で接してくるのが不思議な感じだ。
まるで幾度となく繰り返してきた作業であるかのように、さっそく冒険準備を始める。
様々な目的のあるソーマファンタジー。
メインのストーリーの奥深さもさることながら、キャラや装備の強化もやりごたえのあるゲームである。強い装備を手に入れる手段は大まかに分けて二つ。
伝説の武器を手に入れるか、強力なモンスターを倒すか。
(または手に入れた素材を加工)モンスターから手に入れた武具やアイテムは他人に売却することができ、この世界の冒険者における大きな収入源となっている。
そして先ほどマリチが言ったモンスター。
『砂漠の皇帝』
広大な砂漠に雨季が訪れた際、ほんの短い期間だけ出現する巨大な古代昆虫の一種である。
この世界では、多くいる個体の中でも特別に強力なモンスターに、固有の名称が与えられることがある。
この個体もそういう存在のうちの一体だ。
そういったモンスターはこの世界ではネームドモンスターと呼ばれ、レアな装備や素材をドロップする。
今回の『砂漠の皇帝』は、俺の知識に照らし合わせると中級ランクのモンスター。
そこそこ腕に覚えのある冒険者の小遣い稼ぎにはちょうどいい。
「さっそく行こうか~」
彼女は転移呪文の詠唱を開始した。
移動用の魔法は本来は長大な詠唱時間を要するのだが、魔法系クラスを極めているマリチの場合は、ほとんど一瞬である
ブォォーーン(効果音)
唸るような音とともに辺りは闇に包まれた。
次に、急に強い光が差し込んだかと思えばそこはもう広大な砂漠である。
-熱砂の砂漠-広い遠浅の海に面した鳴き砂の砂漠で、連日強い風が吹く。
砂は強風によりはるか遠くから飛んできたものが積もっていったもので、砂漠というよりも海に面した砂丘とでもいう地形。
点在している岩の周辺には雨水がたまり、南国風の木が密集して生えている。
その中でもひと際大きな木々が集まっている場所にそれはいた
砂漠の皇帝『デューンエンペラー』
ムカデにトンボの羽が生えたような姿で浮かんでおり、とにかく巨大だ。
クジラぐらいあるかもしれない。「タイミングよく沸いてるなぁ。ありがたいね」
ソーファンの世界におけるネームドモンスターは、一度倒した後に再び出現するまでにかなり長い時間を要する。
砂漠の皇帝の出現周期はおよそ三日ほど。
タイミングよく出会えるかも運だし、もたもたしてると誰かが倒してしまう。
ゆえに今のこの状況はかなりラッキーというわけだ。
と、思ったが……。
「あれ~?……誰か先にやってるなぁ~……」
と、マリチは苦笑い。
近づくにつれ、剣がモンスターの固い装甲にあたる音や、魔法の炎がはじける音が聞こえてくる。
さらに距離を詰めているとなんとなくわかってくるが、どうも戦況は芳しくないようだ。
「なんか負けそうかね?」
マリチが呟くのと同じぐらいのタイミングで前衛にいた戦士風の青年が、こちら側に大きく弾き飛ばされてきた。
「マズいな」
「手伝おっか」
マリチがゆるく詠唱を始める。
「宇宙を統べる星界の王、我が求めに応じ疾くきたれ。いでよ真龍~」
それはまるで日常会話の一節のような軽い調子だ。
呼び出す者の名を唱えつつ、手を複雑に交差させる。
すると目の前に現れた光の魔法陣から巨大な銀色の竜が躍り上がった
「あ。やっぱマリチは召喚できるんだ…」
俺とマリチは基本的にずっと同じクエストをこなしてきている。
なので習得しているクラスやスキルは同じである。なので俺に出来ることはマリチもできるし、逆もしかり。
とはいえ今設定しているクラスはマリチが『召喚士』、俺が『ルーンナイト』
『ルーンナイト』は防御系クラスである。
精霊たちの力を取り込んで魔法防御力を飛躍的に高めることができる。「エンチャントスピリット、氷神」
全身に白い霜のようなオーラがまとわりつく。
一瞬にして氷の精霊の力を纏い、剣を抜いてデューンエンペラーに近づく。
モンスターは前衛風の金属鎧を身に着けた青年を弾き飛ばし、次に後ろの白魔導士を攻撃しようとした時だった。
ギギッ!
剣を抜き放った俺の気配を察知したのか、突然方向転換してこちらへ向かってきた。
「ヨーイチのヘイトの方が圧倒的に勝ってるみたいね」
この世界には『ヘイト』という概念がある。
要は敵からの狙われやすさであり、殺気みたいなものだと考えればわかりやすい。
元々盾クラス(前に出て敵の攻撃を受けるクラス)を好んでいたせいで、俺の装備は基本的にヘイトが上がりやすくなっている。
モンスターはまっしぐらに俺に向かって噛みつき攻撃をしてきた。
が。
ガギギギッ!
かじられてもダメージは入らない。
「こいつクラスだと無傷か」
どうやら今の俺の強さだと、中級クラスのネームドモンスターの攻撃でもノーダメージらしい。
ということはこの世界での俺のステータスは、ゲーム時代のものをそのまま引き継いでいると推定できる。
「誰かわからないけどありがとう!」
「助かります!」
そしてもう一人横に控えていた狩人風の青年もお礼を言ってくる。
「かたじけない……!」
どうやら俺たちよりも先に戦っていたこの冒険者の3人組は、まだまだ初~中級クラス……レベルにして30ぐらいか
「倒しちゃってもいいかな?」
ガスゴス殴られながらもノーダメージの俺を見ながらマリチが呟く。
先に戦っていた彼らの獲物を横取りするような行動はあまり推奨されないが、俺が殴られながらボーっとしているのも変な話だ。
待っていても3人組が戦況を覆してこいつに勝てるとは思えないしな……。
しばし考えた後、俺はうなずく。
マリチが横目でそれを確認する。
「了解した。では。真龍の咆哮発射~。世界を制する滅びの光~」
マリチののほほんとした詠唱に連動し、前に浮かんでいた巨大な龍が空高く羽ばたく。
そして敵を見据えた位置で静かに静止すると、口元にチリチリとエネルギーが収束し始め……
そこから一気に強力な光が溢れ始める。
目の前の敵に集中して死闘を繰り広げていた三人。
ようやくマリチが従えていたのが最高位の召喚獣であることに気づく。
『はわああああ最高位召喚術…!!』
3人は目を見開いてその光の凝集に驚愕し、慌ててモンスターから飛び退る。
その直後。
シュドッ――。
目もくらむほどの閃光が、モンスターの身体の大半を貫いた。
俺はむくっと起き上がったそこはマリチの家の庭「元凶になったドラゴンを倒したのに……なんで私たちはまた異世界なんだろうね」ぶっ倒れていた俺の横に座っていた日枝薫が少し不思議そうに呟いた「……」―――俺が望んだからだ。まだこの世界の探索は始まったばかりだしやらなきゃいけないクエストもイベントもいっぱい残っているからな!「みんなどうやってここに?」素朴な疑問だ「私は家で勉強してたら部屋に扉が出たから。そこから入った」妹の曜ヒカリがとんでもないことを言った「湊くんとマリチさんが消えた後、あそこに扉が出たので」なるほど俺たちが飛ばされた後の話か「私は女神さまに会ったよ」マリチは腕を腰に当て、ふんぞり返りながら言った確かにあの時マリチも一緒に飛ばされていったからな……「あ、そうなんだ。なんて言ってた?」マリチは少し空を見上げながら考え込む「あんまり覚えてないな……お礼を言われた気はするけど」「そうなのか」「あ、でも。マリチにも扉、見えるようになりました」『えっ』衝撃の発言に、俺と日枝さんと曜がそろって声を上げる「てことで、これからはそっちにも遊びに行こうかなと」それとんでもないことになるやんこのお気楽な最強女子を俺たちの現実世界は受け止められるんか?「じゃあ私もまた冒険しに来ようかな」曜はえへへと笑いながら言った俺にとってはライフワークなのに、へらへらしながら言ってるんじゃないよ「それよりさ」マリチがニヤリと笑った「そろそろ深海の悪魔が湧くころだよ。行くよね?」『深海の悪魔』それは魔の海域と呼ばれる場所にひっそりとある海底洞窟に
「無明拳。からのもっかい無明拳」ガン!……ガン!!必殺拳を二連続で命中させることにより、連携空間「極光」が発生する。俺はそこにすかさず聖球の魔法をぶちこむ。龍の頭部が大きく後ろに揺らめき、側頭部の結晶がはじけ飛ぶ。が、大きくのけぞった頭部は再び遠心力をつけて攻撃してくる。口を大きく開いて噛みついてくるのを、すかさず割り込んだ俺が受ける。マリチはそれを当然のことのように感じているのか、感謝をすることもない。 そもそも最初から回避をする気もないようだ。龍は相変わらずレーザーを撃ってくる。たまにマリチをかすめることもあるが、武術家の膨大なHPで致命傷には至らない。しっぽや噛みつきといった特大物理攻撃に関しては、俺が先読みして受ける。「無限・羅刹衝」マリチの両手から放つ衝撃波が、龍の腹部を大きくへこませた。その衝撃で最後まで残っていた星核結晶に大きなひびが入り、バラバラと剥がれ落ちる「ああ……やっぱり蛇だったんだなあ」虹色の結晶核をすべて剥ぎ取られた龍は、もはや『龍』とは呼べない。翼は捥がれ、たくさんの角のように伸びていた結晶は全部砕かれ、全身は光沢のある白い鱗でおおわれている。かろうじて残っている小さな四肢が、蛇をまだ龍だと言わしめる。「極大雷撃槍」マリチが腕を振り上げて、巨大な雷魔法の槍を放った。バリバリバリバリ……!!だが電撃は龍に当たるか当たらないかのところで、虹色の障壁に阻まれる。「結晶の鎧がなくとも、そもそも星核の力を吸い取ってるから魔法は効かないか」俺は冷静に敵の動きを見ながら、何が効いて何が効かないかを観察していく。 (決して横で解説してくる謎のおじさんになっているわけではない)が、そんなことは一向にお構いなしの奴がここにいる。「連続流星群」マリチが両手を大きく広げ、その手をまっすぐ上にあげる。と、同時に龍の上空に無数の魔法陣が現れて巨大な隕石が落ちてくる。それを防ぐべく、龍の身体に無数に現れた防御障壁の輝きで、辺りはまるで昼のように輝く。だがマリチの攻撃はとどまることがない。「漆黒の闇を統べし者、我が求めに応じ疾くきたれ。いでよ冥王」素早く両手を回して魔法陣を生みだすと、そこから黒い巨大な人型の深い闇が現れる。「世界を律する滅びの鳴動。審判!!」イバラの様に伸びる無数の黒い稲妻が、アメノ
淡い光の道を駆け抜けたその直後。……夜か。辺りは闇に包まれていた。眼がまだ慣れていないためほとんど何も見えないが、ここがどこかは予想がつく。転移魔法は一度行ったことのある場所しか行けない。龍が現世でゆかりのある場所は、あの奥宮しかないはずだ。 ……だが妙だ。静かすぎる。あんな巨体、境内に隠れる場所などほとんどないはず。さらに言えば黒竜が現れた際に、ほとんどの木が吹き飛んでいる。何処にいても剥き出しになるはずだ……いくら夜の闇の中だとは言え、まったく見えないということは……。ここではない別の場所に現れているのか……?俺は戸惑いの中、一瞬だけ後ろを振り返ってみた。遠くには町の小さな光が綺麗に見えている。やはりここはあの奥宮のあった高台。そして扉がつながったということは……はっと気が付いた。――暗すぎる。昨日はちゃんと月が出ていた。今日の月齢こそ正確にはわからないが、満月に近い頃合いだったはずなのにこの闇の深さ。俺は本来あるべき月を見上げた。 やはり―――そこにいたか。異世界と現実世界を結ぶ、伝説のモンスターただ……その姿は――「カオスドラゴンになっとる……」先ほどまでの星の核の上で戦っていた時は、長い身体をくゆらせる蛇体だった。今はそこにドラゴンの様な翼膜を備えた巨大な翼を持っている。もしかして単純に、飛ぶ必要がない時は収納可能だった?元々ソーファン世界で戦った時は無駄にホバリングしていた。ゲームだとバトルフィールドは閉鎖空間なので、その飛行能力に意味はなかったが、ここは何でもありの現実世界。大型モンスターの飛行移動は、被害の桁を変えてしまう。「マズいぞ……」小さな蛇神様だったときのアメノミカヅチがどういう神さまで、どういう経緯でここに祀られていたのかは分からない。だが無理やり召喚されて、暴走するほどのエネルギーを与えられ、モンスターに成った状態で、ここに戻ってきたのだ。女神さまの意思でもあり、異世界の精霊たちの意思でもある。二つの世界のバランスを取る者(自称)として……大変申し訳ないのだが、龍の神さまにはもう一度お鎮まりいただく!って……俺が負けたら、この龍で世界が滅びるかもしれないな……あ、でもそうなったら次は別の世界からたくさんの勇者たちがやってきて アメノミカヅチを倒すという第
戦いは始まった。巨大な水の槍は龍の輝く鱗をバキバキと砕きながら突き進む。しかし圧力は少しずつ弱まり、やがて水飛沫へと形を変えて消えていく。全ての水が飛び散り霧散しても、龍の硬質のたてがみを破壊しきれてはいない。周囲の星核結晶と同じ淡く発光していた龍の身体。 しかし、ゆっくりと動き始めると同時にその光が消える。……充電を途中でやめた。みたいな状態?鎌首を持ち上げるように上体を起こすと、龍の胴体は硬質の結晶同士が擦れあう轟音を立てながらこちらに這い寄ってきた。俺はまだ敵との距離がある間に、カオスドラゴンを『調べる』《星龍 アメノミカヅチ》『その強さは計り知れない』と表示されている。ステータスや体力ゲージなどはどこにも見えない。……今のでどれくらいダメージを与えたのかも分からないな。時間制限のある絶対防御を最初から使ってしまうのはマズい。相手の攻撃の威力が判断できないし、長期戦の戦略が組みにくくなる。「俺がダメージをもらった時の回復は任せる!」龍から距離を取って下がっている日枝さんに、俺は合図を出しておく。「わかった!」俺は威嚇のための閃光魔法を放った。そこか。とでも言うように、龍がこちらを向く。その動きは龍ではない。蛇だ。というか、この龍は……蛇なのだ。異世界にて強大に成長したことで龍に成ったのだ。アメノ(天に棲まう)ミカ(門を制する)ツチ(蛇)なのだ。何処にあるかもよく分からなかった口が、裂けるように横に開いた。……その姿も蛇をほうふつとさせるヴァハッ無数の小さな何かを飛ばしてくるその動きは、さながら毒を吐きかけるが如く。高速で飛んでくるその何かを、俺は身幅の広い両手剣で受け止める。「結晶の欠片か…!」 それは細かく砕かれたような無数の結晶の破片だ。全てが尖った鋭利な構造をしており、刺さると厄介そうである。この巨大な敵と戦うのに、小細工は必要ないだろう。俺は剣を振りかぶると、思い切りよく胴体に切りつけた。ガギッ!!うん。まあ、めちゃくちゃ堅いが、一応ダメージは入るな。「無双連斬」25回攻撃。ドガガガガガガガガガガッガガッガッガが、モーションが長すぎる。途中で巨大な尾による薙ぎ払い攻撃が飛んできた。攻撃をキャンセルして剣で受ける。ドガッッ身体が浮かされ、100メートルぐらい飛ばされた
「で、どこにいるの? カオスドラゴン……その……アメノミカヅチ様は」「それなんだよな……」ソーファン世界で戦ったカオスドラゴンは、星の核に寄生していた。 戦いは謎の異空間みたいなところで行われていたが、あれはどこなのか。通常の方法でその場所には行けないだろうから、こちらから挑むことができない。ソーファン世界のモンスターは俺たちを感知してから実体化していたが、それはおそらくこちらの世界とのつながりが弱かったからなのだろうだがカオスドラゴンは元々こちらの存在……。もしこっち側に出たら、最初から実体化してるのではないか?「元々ここでお鎮まり頂いていたのなら、実は良い神さまだったりしない?」俺の不穏な予測とは裏腹に、日枝薫が素朴な疑問を口にした。が、それはないんじゃないかな……。何故なら、暴走して魔獣と化したからこそ討伐イベントが発生したのだ。そしてそもそもに俺が異世界に行くことになったのも、倒さなければならない存在だと判断されたからだろう「暴走したソイツと戦ったのが事の始まりだからなあ……」「ダメかぁ」やはり被害を最小限にするにはまだ活動を始めていない今、倒すしかない。「なんとかしてこっちから行くしかないな」「やっぱりそうなるか……」いままで扉が出たり出なかったりする条件がいまいちわからなかったが、今ならなんとなくわかる扉はおそらく必要に応じて出してくれてたんだろう。全ては『龍』を倒すことにつながるように。「じゃあ行ってくる」俺は魔導書を出し、転移魔法を唱え始めたガシッ魔導書を持っている手首を掴まれた「私を置いていくつもり?」詠唱は一瞬にして完成してしまっている。日枝薫の表情を確認する間もなく、転移空間は俺たち二人を飲み込んだ ブオォォン腕を掴まれたまま俺たちが出てきたのは、アパートの風呂場。すなわち光る『扉』の前だ。 なにかを訴えかけるように、いつもより輝きが強い気がする。「行けってことだよね」電気がついていない夕暮れ時の風呂場である。薄暗い室内でなお、日枝薫の目は輝いている。「いや、俺だけで行くよ」強すぎる敵である。 以前戦った時にわかったが、レベルマックスの俺たちと対等のモンスターだった。まだ装備やレベルがマックスではない日枝さんが戦うのは危険だ。「君の言いたいことはわかる。でも支援ぐらい
大学の図書館にめぼしい発見はなく、街の図書館にて見つけた情報。ようやくそれらしい記述を見つけたかもしれない。俺はバリバリに理系で、こういうジャンルの専門家でもない。……だからこれはあくまでも想像の域を出ない。 記紀(古事記・日本書紀)には載っていない古い郷土史、風土記の記述。いわゆる地元以外では知られない、小さなお社などの看板等でしか見ない物語。そこに登場しているお宮の名前は『神戸(カミド)神社』主祭神はふつうに天照大御神、と、地元の氏神様。 けどそのお宮の隅っこに摂社として小さな祠がある。そこに祀られている『門蛇大明神』とやらの御祭神が。『天之御門蛇(アメノミカヅチ)』 または 『天石門別蛟(アメノイワトワケノミズチ)』という謎の存在。これは有名な天岩戸伝説に関わっているらしい。 いわゆる、天照大御神が天岩屋に隠れたという有名な物語だ。御門というのはその時に洞窟をふさいだ岩の事。門の神さまである。岩の洞窟の入口を岩で防いだら普通、隙間が結構できる。自然石と自然石なのでピッタリ合わさることにはならないからだ。しかし岩戸は結界となり外界とは隔絶される。その岩戸にできる、ほんの小さな隙間を通り抜け、出入りできるモノが居た。岩戸隠れした際に隙間から出入りし、天照大神の話し相手になっていたのがこの……『アメノミカヅチ』という、神というか……蛇の妖怪だ。この物ノ怪は、岩戸の隙間を何度も出入りしていた。 つまり、結界をくぐり抜ける力を持っていたと考えられる。それこそが門を越える力……。現実世界と異世界の次元を飛び越えられる力?ソーマファンタジーという異世界において、一万年前にあった星核の暴走の際。そのエネルギーを喰わせるために元になった、神獣と呼ばれるモノの正体。 これかも……。人智を越えている。 だが、筋は通る。次元を超える力を持っていた存在だったからこそ、異世界から何らかの方法で召喚されたのかもしれない。だが……もしそうだとすると、カオスドラゴン……アメノミカヅチは、いつかこちらに還ってくるのだ。俺と同じように異世界の力を手にして。何故最初のきっかけがカオスドラゴン討伐だったのか。この町に住んでいた俺が代表として選ばれて異世界に行ったのか。全ては繋がっていたに違いない。俺である必要がない気も少しする